ミステリー初心者の感想

ミステリー初心者です。主にミステリー小説の感想を書き留めていきます。

恋と禁忌の述語論理 著:井上真偽 感想

探偵の推理を検証する探偵は「数理論理学」のお姉さん

本日は第51回メフィスト賞受賞作でデビュー作の「恋と禁忌の述語論理(プレディケット)」の感想を書いていきます。

著者の井上真偽はこのデビュー作を皮切りに「本格ミステリベスト10」など様々なミステリランキングで上位になった「その可能性はすでに考えた」シリーズや現在ドラマ化もしている「探偵が早すぎる」といった作品で注目の作家です。

 目次

 

作品紹介

大学生の詠彦は、天才数理論理学者の叔母、硯さんを訪ねる。独身でアラサー美女の彼女に、名探偵が解決したはずの、殺人事件の真相を証明してもらうために……。
詠彦が次々と持ち込む事件――「手料理は殺意か祝福か?」「『幽霊の証明』で絞殺犯を特定できるか?」「双子の『どちらが』殺したのか?」――と、個性豊かすぎる名探偵たち。「すべての人間の思索活動の頂点に立つ」という数理論理学で、硯さんはすべての謎を、証明できるのか!?

http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000213215 内容紹介一部引用

 感想(軽くネタバレを含みます)

 本作の1人称となる森帖詠彦が美人な叔母に事件の真相を確かめてもらう連作短編の作品となっています。男の子と探偵役の女性という関係の作品は昨今多かったりしますが、この作品はすでに事件が別の探偵に推理されていて、硯がそれを否定し別の推理を与える安楽椅子探偵かつ多重解決の面と否定や解決に導く際の検討に数学的内容を記述するのに用いられる数理論理学を用いるという物凄く角が立った探偵をデビュー作から出してきたなと感じました。

 タイトルの述語論理とか数理論理学と聞くと思わず身構えてしまいそうですが、詠彦と硯の掛け合いは非常に軽い感じで進み、それに合わせて現実世界に置き換えて事件に応じた数理論理学の体系が詳しく、わかりやすく説明がなされています。

 個人的には、数理論理学は今回作中で出てくる命題論理や述語論理などは少々噛んだりしていたので、とても楽しく読めたのと作者の知識の深さや分かりやすさに感嘆しました。

 また、今回用いられている数理論理学は「XならばYだ」「~でないので、~である」など数多の探偵たちが推理する際に論じた論法を細かく検証していくために、公理系という前提(公理)とルール(推論規則)という枠組みを使っていくために述べられています。ですので、厳密に理解しようと思わなくても普段の探偵たちの推理を学術的に解析するとこうなっているんだな~と雰囲気を味わうだけでも面白いと感じた。

 推理小説としても「事故なのか殺人なのか?」「雪の館での双子トリック」などのクラシカルな設定から、硯の前に出てくる探偵たちのキャラ付けも魅力的である。これらの探偵たちが主役の推理小説も見てみたいぐらいです。(雪の館に出てくる探偵上苙丞はその可能性は~に出てきます)この作者はマンガ、アニメ的なキャラ付けを探偵に反映させるのが上手いと感じます。そして、硯による反証からの真相という推理バトルにつながっています。

 反証の部分に数理論理学を使い非常に詳しく話を進めたので、真相についてはややあっさりと進むような印象は受けました。また、連作短編なのでどうしても全体的に小粒になりますが、最後読み終わったときは全体的に収まりのよい最後になっていてよかったです。

 探偵上苙だけでなく、この推理⇒反証のスタイルも「その可能性は~」に引き継がれていると感じさせます。

 主人公と女探偵とのかけあいを楽しむもよし、推理に対する解析的アプローチという他の作品にはない形で見せてくる推理に対する面白さや危うさを楽しむもよし。井上真偽の1作目でもよいし、「その可能性は~」を読んで気に入った人などぜひ読んでみてください。

個人的評価

井上真偽読了1作目

読了18/2/18

★★★★★☆☆☆☆☆ 5/10

 

 

 

 

ここからはさらに深いネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

 

感想追記(さらにネタバレを含みます)

 硯の論理学を用いた反証、証明では公理という絶対に不変のものでいけない前提と推論規則という証明(推理完了)をするために公理(前提)から進めて行くためのルールをもとに行っているので、そこには動機など人間の心の中に秘めており、動機というものは全ての人物に当てはまるものはないので、(人物Aは動機Xで殺人を犯したが人物Bは動機Xでは殺人を行うに足らなかった)公理系には含まれない。

 そのため1章の「スターアニス」事件でも動機(ホワイダニット)をもとにしたあやめの推理を公理にはふさわしくないものがあると議論していった。数理論理学というと小難しいが、極力曖昧なものは省き、行動・発言などの事実に即したもので推理をしようという事であると感じた。

 2章以降後日追記予定