ミステリー初心者の感想

ミステリー初心者です。主にミステリー小説の感想を書き留めていきます。

月光ゲーム Yの悲劇’88 著:有栖川有栖 感想

有栖川有栖デビュー作である大胆なクローズド・サークルもの

本日は有栖川有栖のデビュー作「月光ゲーム Yの悲劇’88」の感想を書いていきます。

この作品は有栖川有栖のデビュー作でもあり、探偵江神二郎、助手有栖川有栖となる俗に「学生アリス」シリーズと呼ばれるシリーズの1作目でもあります。

 

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 目次

 内容紹介

夏合宿のために矢吹山のキャンプ場へやってきた英都大学推理小説研究会の面々を、予想だにしない事態が待ち構えていた。山が噴火し、偶然一緒になった三グループの学生たちは、陸の孤島と化したキャンプ場に閉じ込められてしまったのだ。その極限状況の中、まるで月の魔力に誘われたように出没する殺人鬼! 有栖川有栖のデビュー長編。

http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488414016 内容紹介 引用

 感想

 舞台は矢吹山。大学生の3つのグループが意気投合し一緒にキャンプをしている最中、1人の下山するというメッセージと200年ぶりの大噴火により、一気に舞台がクローズド・サークルとなり、連続殺人が起きていきます。

 クローズド・サークルといえば孤島や雪の山荘というイメージであった私にはすごく斬新な設定でした。これを30年前に書いたものというのがなお驚きです。しかも、このクローズド・サークルは登場人物たちが全く予想できない、極めて偶発的に起きたものというのも面白く、この噴火が推理小説の設定だけでなく、噴火による負傷者や下山などの物語としてメリハリを与えています。

 連続殺人に関しては明らかな刺殺体が発見されます。その際に、不可能性(ハウダニット)は全く議論の範疇になく、純粋な犯人当て(フーダニット)の展開になっています。

 クローズド・サークルの状況だと登場人物は基本的に館にいることが多く、そこで密室殺人などが起きハウダニットとフーダニットが同時に議論されるパターンがよく見られます。その場合、ハウダニットが明らかになると同時に、そのハウを実行できたものという観点から犯人が絞られるというハウ⇒フーといったような流れになるものが多く感じます。

 しかし、この作品はそういったことはなく殺人現場に起きた状況などからフーダニットのみを探していきます。こういった趣向の作品は最近のものではあまり見られないので凄く楽しかったです。

 そして、解決編の前には「読者への挑戦」#2も差し込まれており自身で考えた推理を一旦整理できる場面も与えられます。この「読者への挑戦」といいダイイングメッセージサブタイトルに出てくるYの悲劇といい作者の有栖川有栖エラリー・クイーンへのリスペクトがこれでもかと伝わってくる作品となっており、自分もやはりこの形式の作品が好きなんだなあと読むたびに感じます。

 クローズド・サークルからの連続殺人、そこに出てくるダイイングメッセージ。その後の「読者への挑戦」からの探偵江神の推理というコテコテの推理小説ファンにはたまらない設定のオンパレードです。ですので、純粋な推理小説好きには特にお勧めの1作となっています。

 

月光ゲーム含めて長編4作、短編1作出ています。

#2長編4作にはすべて「読者への挑戦」が差し込まれています。

個人的評価

有栖川有栖読了1作目

読了日18/4/8

★★★★★★☆☆☆☆ 6/10

 

 

ここからはさらに深いネタバレになるので、未読の方はご注意ください。

 

感想(ネタバレを含みます)

 解決編における犯人の絞り込みとして主に尚三の失踪と勉が殺された際に川まで繋がっていたマッチが使われています。

 少々気になった点は、

1:マッチに関しては、犯人の右手が血まみれの状態でマッチとその箱を持てば汚れないはずがない。よって、川で手を洗った帰りだけマッチを使ったという論法なのだが、個人的に右手でナイフをグッと持って刺した場合返り血が手のひらや指の先にべっとりは付かないと思うので、少し死体の状況設定に違和感を感じてしまった点。

2:「読者への挑戦」の前に失踪した小百合を犯人候補から外す情報をこちらに与えてくれます。また、失踪した尚三は指輪により薬指が曲げられずナイフが持てないため犯人候補から外すという論理を取っていますが、この曲げられないというのはあくまで尚三自身の発言による情報のみだったので、尚三があの時点で嘘をついていた可能性があったと考えると少しだけ論理として甘いなと感じてしまった点。

がありました。

 一方、尚三が犯人でないという仮定があるとすれば、尚三の失踪に関しては噴火前の殺害だとばれてしまう為に死体を消滅させたという論法が噴火というクローズド・サークルの状況そのものを犯人を絞る手掛かりにそのまま活かされています。この点は犯人当てとして素晴らしいです。

 また、クローズド・サークル内にいる人間がただの学生のみであり、誰かが殺人事件について中心となって議論するわけではなく各々が勝手に自分自身の見たものに沿った推理を言っている点はすごくリアルな人物の動きだなと感じます。また、その中にダイイングメッセージの解釈など的を射るものもあるなど虚実入り乱れている点がよいバランスで書かれていて良かったです。