ミステリー初心者の感想

ミステリー初心者です。主にミステリー小説の感想を書き留めていきます。

十字屋敷のピエロ 著:東野圭吾 感想

十字屋敷とピエロによる王道と変化球の融合ミステリー

本日は「十字屋敷のピエロ」の感想を書いていきます。

著者の東野圭吾に関しては説明不要の売れっ子作家です。ですが、私は「ガリレオ」シリーズをドラマ・映画でしか見たことがなかったので、この作品が東野圭吾初の小説となります。

 

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目次

 内容紹介

ぼくはピエロの人形だ。人形だから動けない。しゃべることもできない。殺人者は安心してぼくの前で凶行を繰り返す。もし、そのぼくが読者のあなたにだけ、目撃したことを語れるならば……しかもドンデン返しがあって真犯人がいる。前代未聞の仕掛けで推理読者に挑戦する気鋭の乱歩賞作家の新感覚ミステリー。

http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000161218 内容紹介 引用

 感想

 舞台は竹宮家の十字屋敷です。竹宮家の女社長頼子が亡くなった事を聞き、屋敷に来た姪の竹宮水穂の視点屋敷にある奇妙なピエロの人形の視点から屋敷内で起こる惨劇が書かれています。

 謎の自殺を遂げた女社長の一家に十字型の屋敷といういかにも何かありそうな状況で

1:頼子の死

2:夫と秘書の死

3:真相を知りかけた男の死

と3つの死に関して話が進みます。しかし、この作品はそうした本格的な舞台設定のミステリーの中で様々な変化球を見せていって驚かされました。

 主に水穂視点で話が進みますが中盤までは屋敷内の殺人には警察が登場してきて水穂は推理をする事もなく、誰かの助手として情報を積極的に収集する事もなく、警察に事情聴取を軽く受けるという傍観者の形で基本的に事件に絡んでいきます。

 この水穂視点に所々にピエロの人形による視点が挟まれて行きます。このピエロは読者にとっては神の視点となり水穂が見ていない視点を補完する一方、ピエロ視点の一人称なので目が隠されたシーンは描かれないなどと普通の神の視点とは一味違った視点変更を水穂とピエロの中で展開されているのが非常に面白いです。

 この様な視点に関する話の進め方は独特の試みである一方、現在進行形で進む2,3の事件は共に不可解な所やどのようにやったのかという点に対する疑問が生まれづらい事件設定になっています。それ故に、誰がやったのかも絞りづらい形になっているので正直事件に関しては魅力を感じられないまま、淡々と進んでいきました。

 ですが、真相が明らかになった際には屋敷を活かした物理トリックもあり、普通の神の視点にはできない、人形の一人称ならではの叙述トリックありと作者の豊富な仕掛けにはびっくりしました。

 さらに、2,3の事件は実行犯以外の様々な人物によって事件の様相が変わってしまい、ラストのある人物の意味深な発言も見ると、実行犯と読者が道化になって踊らされたような事件だったなと振り返りうすら怖くなってしまいました。

 王道な状況から生じる、王道あり、邪道ありと様々な展開、トリックが味わえる作品となっています。

個人的評価

東野圭吾読了1作目

文庫版読了日 18/5/13

★★★★★☆☆☆☆☆ 5/10

 

 

 

ここからはさらに深いネタバレを含むので、未読の方はご注意ください。

 

感想(かなりネタバレを含みます)

 1の死に関するトリックは王道そのものです。

 2,3の死に関しては実行犯永島が松崎に犯行を誤認させるトリック以外に家政婦の鈴枝や竹宮静香の犯行状況の改ざんや永島のアリバイ時間に関する偽証であったり、竹宮佳織のラストでのメタ犯人への示唆、といったように非常に後期クイーン問題の第1の問題が全て含まれている真相、結末になっているので好みがものすごく分かれると思います。

後期クイーン問題 第1問題

「作中で探偵が最終的に提示した解決が、本当に真の解決かどうか作中では証明できないこと」についてである。
つまり“推理小説の中”という閉じられた世界の内側では、どんなに緻密に論理を組み立てたとしても、探偵が唯一の真相を確定することはできない。なぜなら、探偵に与えられた手がかりが完全に揃ったものである、あるいはその中に偽の手がかりが混ざっていないという保証ができない、つまり、「探偵の知らない情報が存在する(かもしれない)ことを探偵は察知できない」からである。
また「偽の手がかり」の問題は、いわゆる「操り」とも結び付く。すなわち、探偵が論理によって「犯人」を突き止めたとしても、その探偵、あるいは名指しされた犯人が、より上位の「犯人」による想定の中で動いている可能性はつねに存在する。このようにメタ犯人、メタ・メタ犯人、……を想定することで、推理のメタレベルが無限に積み上がっていく(無限階梯化)恐れが生じることがある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/後期クイーン的問題

 

  この様な真相だったので、私としては読者が完全に推理できるような下地にはなっていなかった点が少し不満でした。

 ただし、ピエロの視点を使うことなどで静香が何か隠しているといったことは読者に提示していたのでほんとにいろんな役割を握っていたのだなと感じた。