フランス白粉の秘密 著:エラリークイーン 感想
最初から最後まで推理の連続が圧巻な国名シリーズ2作目
本日は「フランス白粉の秘密」の感想を書いていきます。
この作品は作家と同名探偵のエラリークイーンが活躍する国名シリーズの第2作目となります。
目次
作品紹介
〈フレンチ百貨店〉のショーウィンドーの展示ベッドから女の死体が転がり出た。そこには膨大な手掛りが残されていたが、決定的な証拠はなく……難攻不落な都会の謎に名探偵エラリー・クイーンが華麗に挑む!
感想
物語も早々に数多くの人が見る中で女性の死体が現れる様はインパクト大の展開でした。
事件発覚後はショーウィンドウや百貨店の最上階にある社長のアパートメントにエラリーが出向き細かな疑問点、証拠品を集めていくのですが、その場所での捜索が終わる毎に自身の考えを特に引っ張りもせずエラリーが巧みな推理を披露していきます。
解決編を「読者への挑戦」という形で分けているにもかかわらず、推理を途中で明け透けと披露する展開は少々意外でしたが、読者側としては整理して読みやすくなっているなと感じました。
全体的に、純粋な推理小説の場合探偵パートは地味な展開になりがちな所ですが、極力エラリー以外の人物同士の話などを排除してする事でテンポ良く情報収集が進みます。また、推理を途中で述べつつも新たなる謎の出現と既存の謎に対する推理のバランスが小説の比重として素晴らしいと思います。
そして、解決編に入りますが前の話で部分的に披露していた推理を一気にまとめあげるのと同時に新しい推理を披露していきます。推理を小出しにする今回のパターンは中盤の物語を引き締めるという点では良いと感じますが、どうしても解決編で同じことの繰り返しになる部分が多くなっていました。また、一気に推理を解決編でまくし立てるよりかは衝撃度も減るのでどちらがよいかは好みによるかもしれません。
ただ、 犯人の条件を絞り込んで行った後の消去法推理は私個人として一番好きな形かつ納得のいく推論なので非常に楽しく見れました。
最後の作品の終り方は美しかったです。 まさにフーダニットの極北というような形でした。次回作以降も楽しみです。
個人的評価
エラリークイーン読了5作目
角川文庫版読了18/8/14
★★★★★★★☆☆☆ 7/10
ここから多分にネタバレを含むので、未読の方はお戻り下さい。
感想(ネタバレ含みます)
何点か推理で気になる部分がありました。
1.良くも悪くも気になったのは絞り込みの一つとして「犯人が単独犯である」という事を議論している点です。
まず、推理小説で犯人を絞り込む際に単独犯であるという議論を全くせず、当然のように仮定の一つに組み込んでしまっているものが多いように感じます。その点、この作品はきちんと議論して「単独犯」の結論を出してる点は素晴らしいです。
一方で、その「単独犯」を結論づける際の2人説の反論として
ひとりよりふたりのほうが警備員に感づかれやすいですからね。(P477)
という話ですましているのが少々強引だなと読んでいるとき感じました。
…ですが、その後今回の角川文庫の解説を読んでいるとその部分に関して言及がありました。(P514 その新訳ー親しき仲には礼儀なし?)その部分を読んで、翻訳者の考えや多大な苦労を知ると共に推理の納得感が増しました。
2.犯人の条件の絞り込みは素晴らしいです。ただし、その人物に当てはまるかを検討しているのがメタ的な話になってしまうが登場人物でしか行っていない点です。この犯人の条件だけだと、今回作品に出て来ていない百貨店の人物の多くに当てはまってしまうのでその部分が少々解せないです。
3.これまでの犯人の条件とは別に、ブックエンドの指紋検出用の粉に着目する点です。
何より重要なことに、今回の捜査の関係者のなかで、指紋検出用の粉を使うのが自然で完全に理にかなっていた唯一の人物です…(P498)
この推理を聞いた時に衝撃を受けました。今までの推理では地道にそれぞれの証拠を検討して犯人の条件を見つけていっていたが、こんな簡単なことで犯人が簡潔に絞り込めてしまうじゃないか!なぜ気づかなかったのか!と興奮と共に膝から崩れ落ちたい気分になっりました。
その一方、これを聞いてしまうと今までの推理は何だったのか(より確信を増やすには必要という意見もあると思うが…)となってしまい推理を行う必然性が感じられなくなってしまうのが残念でもありました。
と、まあ色々言って来ましたが、細かな推理の部分は非常に気持ち良く感じます。特に、センセーショナルな死体の発見場所に関して、なぜ犯人がベッドに詰めたのかの疑問に対し極めて合理的な推理を決めたのはすごく良かったし、この推理を序盤で行ったのにも驚きました。
推理に関してはこの辺が主に思ったことです。以下はそれ以外に関してです。
4.今回の物語の一つのキーとなった口紅ですが、被害者のウィニフレッドが犯人と深夜に自身のアパートメントで会うのに口紅をつけるというのがあまり納得できませんでした。この情報により、犯人がウェニフレッドと非常に恋愛関係などの親しい仲にあるのだと感じてしまう。
ただ、これに関しては昔の海外の背景が分からない私の知識不足、ギャップもあると感じます。この辺は国内、海外問わず古典と呼ばれるものを読む際に苦労する部分です…。
他の方はこのような社会的背景などにギャップを感じてるものなのでしょうか?私だけなのか?気になってしまいます。
5.今回の動機として、麻薬組織の上からの命として犯行を行ったと言う事なのだが、こういう設定の場合むしろ複数犯にするのがセオリーな気がしてなりませんでした。
6.アパートメントの血の処理について見た目では痕跡0になっていましたが、現実的に可能なのか?医者の意見では血はかなりの量が出たとあったので気になりました。
最後に作品としての終わり方は非常に美しかったです。最後の1行で犯人の名前が告げられるのはフーダニットものの極北と感じました。次回のシリーズ以降も楽しみです。