○○○○○○○○殺人事件 著:早坂吝 ~タイトル当てという怪作~ 感想
タイトル当てという怪作
本日は第50回メフィスト賞受賞作「○○○○○○○○殺人事件」の感想を書いていきます。
この作品は著者のデビュー作で「本格ミステリベスト10 2015年版」第6位、「ミステリが読みたい! 2015年版」第1位(国内篇 新人部門)と評価されています。
目次
内容紹介
アウトドアが趣味の公務員・沖らは、
仮面の男・黒沼が所有する孤島での、
夏休み恒例のオフ会へ。
赤毛の女子高生が初参加するなか、孤島に着いた翌日、
メンバーの二人が失踪、続いて殺人事件が。
さらには意図不明の密室が連続し……。
果たして犯人は? そしてこの作品のタイトルとは?
感想(途中からネタバレ)
推理小説ではやはり魅力的な謎が必要不可欠だと思います。その中で謎はフーダニット(犯人あて)、ハウダニット(トリック解明)、ホワイダニット(動機など)と3つに分類されるものだと考えていました。しかし、この小説はその3つに分類できない新たな謎タイトルダニット(タイトル当て)という形になっています。小説をめくる前から引き付けさせ、読者に謎を提示するとは・・・とてもワクワクさせられました。
本を開いて目次に行くと、始めには読者への挑戦状と章のタイトルに登場することわざたち。挑戦状にはタイトルダニットに関する説明が挑戦的な言葉とともに語られています。
タイトル当ての目的は2つある。
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もう1つの目的は救済措置だ。右のように書いたものの、やはり諸君が真相を解明するのは不可能であるように思う。そうなった場合、犯人もトリックも当てられず作者に完全敗北したまま本を閉じることになる。それではあまりに哀れだと思ったのだ。
読者への挑戦 一部抜粋
こんなことを書かれたら、読むのに燃えないわけにいけません(笑)この時点でもう作品に取り込まれていました。
さて、本編を読み進めて行くとブログを介して集まった男女が、毎年恒例のオフ会により孤島へ向かう所から始まります。作者がタイトル当ての練習となる孤島に向かう前の1つの殺人事件が挟まりつつ、男女は孤島に到着します。
孤島に到着したらそこでは
仮面の主人
次々起こる失踪や殺人
ミステリ好きな登場人物
といったいかにもなシチュエーションで話が進んでいく。
仮面などこのような既視感のある設定のため、メイントリックがバレバレなんじゃないかと思わせる流れに大丈夫かこの作品・・・と思いつつ解決編に進みます。
すると、解決編では空前絶後の仕掛けに驚かされました。これはわかりません。作者の挑発的な読者への挑戦状にもうなずけます。作者の大胆な仕掛けだけでなく、細かな描写や推理の部分も実によくできておりちゃんと「本格ミステリ」してるなと感じられます。
なんとかトリックが解明された後、タイトルを当てるのが精一杯でした。
色々書きましたが、読んでない方は四の五のいわず読んでみるのをお勧めします。ただし、本作はエロシーンが混じっているのと、作者のメタ的な発言があったりするのでその辺が合わない方はご注意ください。
以下ネタバレ
中盤孤島に着いてからは、よくあるクローズドサークルの流れが進んでいく中、メインの殺人の謎においてハウダニットは明らかであり、フーダニットはほとんど意味のない自己申告のアリバイしかなく、誰もが犯行可能としか思えず特定できません。それに加え、ありがちな仮面の男と浅川との入れ替わりトリックを示唆する描写だけは飛び出します。そんな中、誰もいないand生きている人の部屋を密室にするというのは中々面白い謎でした。
こんな状態で納得のいく回答が得られるのかと呆れたところに、孤島の人物たちはヌーディストだったという驚愕の事実が明かされます。しかもこの事実、見返してみるときちんと作品で示唆されていて驚きました。
・沖が全裸になると南国モードとなり一人称や発言が変わる描写がシャワーで描写されている。
・島の子供たちにヌード写真集を置かれるというイタズラがあった。
・ビーチで遊ぶ姿を船から撮影される。
・初めの登場では服装に関する描写が細かかったのに、島到着後服の描写が0、特にビーチでの水着の描写がなかった。
などなどたわいもないと思っていた描写(なんなら冗長となり無駄な描写)ですら盛大な叙述トリックの伏線です。
この作品は、この叙述トリックの1発に終わらず、この事実が明らかになったことで今までの謎がきれいに解明される。さらに、犯人を特定できると思えない状態から一気に犯人が1人に絞れる部分は見事としか言えません。
ヌーディストゆえ、犯人が凶器を隠せる場所が仮面の中or女性器、肛門の穴しかない。
→女性器、肛門の穴を確認するため、探偵上木らいちが沖と性交、女性陣を昏睡させる。
→よって凶器の隠し場所は仮面なので犯人は仮面の男。
性交シーンが推理の一環というのは類を見ません。
さらに、浅川と仮面の男の入れ替わりトリックさえも下ネタから看破するのは驚きです。
非常に馬鹿らしいといえる推理シーンですが、見返してみるときちんと犯人以外の人物が犯行不可能と示される厳密な推理となっています。
解決編前の全く不可解な展開から、解決編で明かされる仕掛けに加え、怒涛の推理とここまででも十二分に驚かされます。さらに、この作品はありがちなクローズドサークルの展開が必要以上に進む中で、
・仮面を凶器の隠し場所に使う。
・さんざん沖視点で話が進む中で、唐突に探偵役がらいちと明かされる。
・カメラの視点を神の視点と称し、探偵らいちが神の視点も推理に使える状況になっている。
などと通常のミステリの様式美をぶち壊しながらストーリーが進む意外性も見してくれました。
気になる部分があるとしたら、ラストでの展開や渚の正体についてが少々無駄だったように感じられるくらいですかね。
個人的評価
早坂吝読了1作目
文庫版読了日17/11/9
★★★★★★★★★☆ 9/10